道
以前、mixiでも書いた日記なのですが、初対面の方には未だに聞かれるので、
ここでもカレー屋になるきっかけのお話をアップしておきます。
思い起こせばもう5年以上も前の話。
道・その壱
大学4年後半から内定をもらった出版社でアルバイトとして働きはじめた。
編集の仕事は面白くて仕方がなかった。
自分で企画して自分で写真も撮ってと、
そのページに関してのすべてを自分でやることができる会社だったから、
本当に楽しかった。
ハードな仕事だから昼御飯も遅く、会社の近くですませることもしばしば。
そんな時、3日に一度は足を運んでいたのが会社の真ん前にあるカレー屋だった。
店主は気さくなバングラデシュ人で、日本語ペラペラで頭の回転早くて。
そんでもってとにかく優しくて。
その店は毎月TV、雑誌、新聞・・いろんなメディアが取材に来てて大盛況。
でも自分はそんなメディアのあおりはどうでもよくて、自分はただここの味が好きだった。
会社に連泊したりで体がおかしくなっても、ここのカレーを食べて元気をもらっていた。
ボクは小さな頃から家で料理を作って家族に食べさせるのが好きだった。
キユーピー3分間クッキングや、日曜のいいとも増刊号の後にやってた「海ごはん・山ごはん」はよく見ていた。
見たら食材とレシピをメモして買い物に行って。
自分の作った物を人に食べてもらうのが好きで、人の嬉しそうな顔を見るのが好きだった。
でも当時の自分にとって飲食の世界は無理だと決めつけていたし、
足を踏み込むきっかけがなかなか見つからなかった。
ましてや何料理がしたいのかも分からなかった。
雑誌作りの楽しさに満たされていた3年目の冬。
相変わらず体に鉛が流れているような感覚がとれなかった。
時計は午後四時を指していて、どこもランチタイムは終了。
立ち食いそばでも行こうかと思った時、
カレー屋裏口から出て来たバングラデシュ人に声をかけられた。
『お〜、久しぶり!顔色悪いじゃんかよ。飯喰ったのか?』
「いや、これから・・」
『入れば?いつも来てくれているんだから・・』
すでにランチが終了し、準備中になっていた店内へ入れてくれた。
『いつものチキンでいいでしょ?すぐ出すから 』
ボクがいつも食べているものは、向こうも当然分っている。
とりあえずカウンターに座り、ちらりとキッチンを覗いてみた。
するとそこには、
あり得ない量のタマネギが見た事のない大きさの鍋の中でグツグツと音を立てていて、
給食で使うような大きなシャモジで鍋底が焦げないようにたまに掻き回している。
違う鍋にはバカでかい肉の塊。
近くの皿にはこれから使うであろう色とりどりのスパイス。
キッチンの仕込みを見ていて、ボクは段々作りたい気持ちになってきた。
「なんかさ、カレーって奥が深そうで面白そうだね」
『えっ!?君は料理興味あるの?』
「あるよ、すごくね。でも趣味程度だけど」
『気分転換に今度手伝ってみる?編集で疲れたらカレー作れば?』
「・・・・・・・・・」
『もしさあ、もしもだよ。キミが本気でヤリタイっていうなら、
教えてあげるけど?厳しいけどね。あとは気持ちだね』
「・・・・・・・・・」
『君のコトはよく知ってるし。信用のある人だからね』
「・・・・・・・・・」
『まあ、ちょっと考えてみたら?』
その話をされた瞬間、鉛の血がすっと消えていくのがわかった。
いつものカレーを食べて会社に戻った。
デスクに座って原稿を書きはじめた。
でも全然集中できない。
頭の中は既にカレーのことでイッパイになっていた。
その弐へつづく
その弐
よく知っているけど、よく知らないバングラデシュ人・・・。
それまで自分の周りには外人の存在というものがなかった。
誘いに本気で飛びついていいものか・・・・。
たとえカレー屋の店主の言葉が勢いで言ったひとことだったとしても、
その言葉がまったくの嘘だったとしても、
逆に自分がアクションを起こせばそのときの自分を変えられるような気がした。
そしてここでそうしなければ、一生後悔するだろうと言う気持ちでいっぱいになり、
その日はよく眠ることができなかった。
翌朝も気持ちは同じだった。
出社して3階の編集部の窓から向かいのカレー屋を見下ろしてみる。
築40年以上のボロ屋が光って見えた。
そしてこの日は、混み合うランチタイムに顔を出した。
『お〜。いらっしゃいっ!』
店主はピークを乗り切るのに必死だ。
キッチンではもう一人のバングラデシュ人がせわしなくオーダーをこなしている。
自分がキッチンの中で動いている姿を想像してみる。 どう考えても、間違いない。
あれがやりたい。 これがやってみたい。
会社に戻り一番信頼を寄せている先輩を呼び出した。
「あの、ちょっとやってみたいことがあって・・・」
昨日と今日の流れを全て打ち明けた。
『気持ちが固まったら編集長に言えばいい・・頑張れよ』
決断はもう自分の中でできていた。
だから翌日、 走り書きの辞表を持って編集長を呼び出した。
「お話があるんですけど、お時間いいですか?」
ただならぬ雰囲気を感じたであろう彼は、
社長室で聞くと言い、ボクはそのあとに続いた。
社長は不在だった。 編集長に封筒を差し出した。
「あの・・、他にやってみたい仕事があるんですけど」
『えっ、辞めるの・・?なんで?なにしたいのお前?』
「ソコです」
ボクは向かいのカレー屋を指差した。
『え?カレー屋じゃん。本気でやりたいの?しかもそこかよ?』
「はい・・」
彼にも同じくカレー屋になりたいという内容の話をした。
『もう決めたのね?』
「はい」
『お前、カレー屋になるのね?』
「はい」
『ん〜。あのさあ、恋愛と一緒でね、付き合っていて他に好きな女ができてしまったら、
もう今までの女にはすべてを注げないわけなんだよな。
特にウチみたいな雑誌は120%の情熱がないと書けないんだよ。
お前が他の女に走りはじめてしまっている以上、
これまでみたいに雑誌作りを突き詰めていくのが難しくなっちゃうわけなんだよな・・・』
「はい」
『今までみんないろんな理由をつけては会社を辞めていったけど、
お前みたいに目的がここまで明確なやつは初めてだ』
「・・・・・・」
『絶対に頑張れよ!』
「はい!決めたことですから」
強い握手を交わした。
男と男の固い握手だった。
料理もこなす多趣味な編集長にとっては、 ボクの選んだ道がうらやましくも思えているようだった。
さらにその夕方、休憩時間の合間にカレー屋に顔を出して、
店主へ「上司に退職願いを出した」と伝えに行った。
するとそこにはなんと、 既にボク専用のデニム地のエプロンが用意されていた。
昨日の今日の話だったのに。
そのエプロンを見て、店主が本当にボクを弟子として迎え入れようとする熱い気持ちを感じた。
声を掛けられてから、たった3日後のことだった。
退社1ヶ月後の朝。
「アッサラ〜ム・アライクム」
つたないベンガル語のあいさつで、
ボクのカレー道はスタートした。



コメント
こんにちは★
1周年ということで、おめでとうございます!!
先週、東京に行ったのでぜひ!と思って探し回ったものの、見つけられず、、、
と思ったら、その日は木曜でした。。。^^;(お恥ずかしい)
いつか必ず、カレー食べに行きますっ♪
投稿者: SUE | 2006年03月26日 23:38
あれあれ、それは残念でしたね・・・・。
足を運ぼうとしてくれた気持ちが嬉しいですね。
チャンスがあればまた次回に。
ありがとうございました。
投稿者: KUMINSOUL a.k.a. TAKUYA | 2006年03月29日 04:22